鉱物・岩石基礎知識

4.資源と鉱石

4.1 鉱石と鉱床、鉱物資源

人類は、地殻から鉄や各種の金属、石油や石炭など様々な鉱物資源(地下資源)を得て文明を発展させ、現在の我々の生活もまた資源に支えられている。こうした資源に関する分野は、地質学が古くから関わってきた分野である。資源と環境問題は、人類の将来を左右する問題であるが、両者は実は表裏一体の関係にある。また資源には、国家の命運がかかることさえあり、熾烈な資源獲得競争が行われる時代になるかもしれない。日本は、必要な資源をほとんど海外から輸入しており、無関心ではすまされない。主な資源はこんな鉱石から得られるのだ、ということを実感しながら学んでいただきたい。

[鉱石と鉱石鉱物]:天然の有用鉱物の集合体を鉱石という。つまりこれらは岩石の1種である。鉱石は、全部が有用鉱物ばかりでできているわけではない。たとえば普通の銅鉱石であれば、有用鉱物である黄銅鉱はせいぜい数%程度で、あとは石英や方解石などの不用の鉱物から構成される。この場合、黄銅鉱などを「鉱石鉱物」といい、目的外の鉱物を「脈石鉱物」という。

 

[鉱床]:有用鉱物が地中(地表でもよい)に集積している部分を鉱床という。集積しているといってもどのようにしているかが問題である。そこでもう少し詳しく定義すると次のようになる。

(1)有用物質(一般に化合物)が、その地殻における平均存在度を越えて濃集していること…(理学的定義)
(2)技術的に採取可能であること(探鉱-採掘-選鉱-製錬・精錬の全過程を通じて可能であること)…(工学的定義)
(3)経済的に有利に採取できること…(経済的定義)

以上の3拍子がそろって、はじめて鉱山として企業的に採掘できるようになる。そこで採算の取れるぎりぎりのところを「採算限界品位」といっている。

表4に、主な金属とその地殻中の平均存在度(クラーク数)および採算可能なおおよその品位をあげておく(諸条件によりその値は異なる)。一般にAlやFeのように地殻中に豊富な元素は低倍率でも採掘できるのに対して、他の金属は数100倍以上濃集している必要がある。また鉛のようにありふれた安価な金属が、金より濃縮率が高くないと採算が取れないこと、Uのような放射性元素が地殻中に案外多いことが読み取れる。これらは資源問題を考える上で重要な事実である。

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表4 主要な金属と採算限界品位・濃縮倍率

[鉱物資源の種類]:資源という言葉は、生物資源、観光資源、はては人的資源と色々に使われる。ここではもちろん鉱物資源(地下資源)の意味であるが、その利用の仕方によって以下のカテゴリーに区分される。標本室の展示は、この線にそっている。

A. 金属資源:化合物として産出する鉱物を分解し、金属として用いるもの
鉄鋼金属:鉄に混ぜて使用する量の多い金属(Fe、Mn、Ni、Cr、W、Mo、Co、Vなど)
非鉄金属:上記以外の金属(Al、Cu、Pb、Zn、Au、Ag、Pt、Hg---など)

B. 非金属資源:鉱物または岩石そのものを利用するもの
窯業原料(セラミックス材料)や耐火材:珪石(石英)、長石、石灰岩、かんらん石、ジルコン、粘土など
化学工業原料:燐鉱石、岩塩、沸石、(石油・石炭・天然ガス)、石材、宝石

C. エネルギー資源:石油・石炭・天然ガス・ウランなど

D. 水資源:地下水

4.2 おもな金属と鉱石鉱物(表5)

金属資源として採掘される鉱石鉱物の多くは、硫化鉱物として産出する(表1参照)。Cu・Pb・Znなどの金属は、Goldschmidtという地球化学の創始者にして岩石学者であった人の区分では、親銅元素といって硫化鉱物を作りやすい性質がある。また鉄やアルミなど、使用量も多く、地殻に豊富に存在する金属は、酸化鉱物として産出する。地球上には酸素が豊富にあるからである。金や白金など貴金属は、単体(元素鉱物)として産出する。それらは酸化したりして化合物を作らないからこそ、貴金属なのである。以下、表5に主要な元素と主な鉱石鉱物をあげておく。

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表5 主な鉱石鉱物

4.3 鉱床のタイプと成因

[鉱床の成因的分類]:岩石と同じように、産状(成因)によって鉱床は以下のように区分される。

・火成(マグマ性)鉱床:火成岩の生成に伴って形成される鉱床
・変成鉱床:変成作用に関連して形成される鉱床 
・堆積性鉱床:堆積岩の生成(堆積作用)に伴って形成される鉱床

理学的にいえば、鉱床とは有用元素の異常濃集体のことであるから、地殻の中で元素がどのようにして移動し、特定の場所に集まるのか、が鉱床学の基本的課題となる。そこでこのメカニズムを中心にして、各鉱床のタイプと形成機構の要点を述べる。

A. 火成鉱床の種類と形成機構
(1)高温(マグマ)状態での元素分別のメカニズムと正マグマ性鉱床
マグマが固結する過程で、元素分別のメカニズムとして最も重要なものは、分別結晶作用(結晶分化作用)である。冷却過程にあるマグマ(すなわち珪酸塩溶融体)の中では、まず最も融点の高い鉱物であるかんらん石が結晶する。できたかんらん石はマグマに比べて比重が大きいので、マグマだまりの底に沈む。残りのマグマは、かんらん石が沈んだ分だけ組成が変化する。次にはそこから輝石が結晶化し、同じように沈んでまたマグマの組成が変化する。このようにして、層状構造の発達した火成岩体-層状分化岩体が形成される。

このとき、それぞれの鉱物に入りやすい元素がその鉱物に取り込まれて沈積し、入りにくい元素はマグマの残液に残ることになる。固体の結晶では、Si-Oを骨組みとして結晶構造が決まっており、どの位置にどんな元素(イオン)が入るかが決まっているので、適合しないものは入れない。適合するしないは、主にイオンの大きさ(イオン半径)と電荷で決まるが、最も重要な要素はイオン半径である。

大きすぎるか小さすぎるかして、主要な造岩鉱物の中に入れない元素のことを、不適合(インコンパチブル)元素といい、これらはマグマの残液に次第に濃縮される。一方で適合する方は、FeとMgのようにお互いに置換しあって固溶体を形成しながら結晶化する。

このような層状分化岩体などに伴って、磁鉄鉱やクローム鉄鉱・白金などが集まることがあり、これを正マグマ性鉱床(マグマ分化型鉱床)という。その最大のものが南アフリカのブッシュフェルト岩体である。

もし銅やニッケルなど硫化物を作りやすい元素(親銅元素)をたくさん含むマグマがあったとすると、硫化物は珪酸塩とは物性がうんと違うので、結晶化が起こる前に、マグマ(メルト)の状態ですでに分離を起こすことがある。これが液体不混和現象である。カナダのサドバリーやオーストラリアのカンバルダ鉱山などの銅ニッケル鉱床が有名で、これらをマグマ溶離性鉱床ということがある。

(2)マグマの残液の中での元素分別とペグマタイト鉱床・気成鉱床
温度低下とともにマグマの残液の中には、主要造岩鉱物に入れなかった元素が濃縮される。その主なものは、H2OやCl・Fなどの揮発性元素、主要元素ではK・Naなどのアルカリ元素とSi、さらにLi・Be・Bなどの軽元素、REE(稀土類元素)やU・Thなどの重元素である。この中で比較的量が多く重要な働きをするのが水などの流体である。それらは軽いから岩体の上方に集まり、マグマだまりの天井に圧力をかけ、岩石に割れ目を生じさせる。そうした割れ目に揮発性成分に富んだマグマの残液が入ってゆくと、結晶作用が急速にすすんで大きな結晶からなる岩石ができる。これがペグマタイトである。残液の主要成分は珪素やアルカリであるから、全体として花崗岩質であるので巨晶花崗岩ともいう。そこでは大きな長石や巨大な石英(大型鉱物の棚を見よ!)ができ、独特の組織(見ればわかる-グラフィック組織)が発達する。これらは珪石長石や雲母の資源として採掘される。

また同時に、希少元素や放射性元素を含んだ鉱物も産出し、貴重な鉱物資源となる。これがペグマタイト鉱床である(鉱物収集家のターゲットでもある)。それらの元素はもともと微量しか含まれていないので、集まって鉱物を作ることができなかったのであるが、このようなメカニズムでペグマタイトに集まって、独自の鉱物を作るようになるのである。

マグマが結晶しつくしてしまうと揮発性成分が残り、揮発性元素を含む鉱物(F:トパーズ・蛍石、Cl:スカポライト、Li:リシア雲母、Be:緑柱石、B:電気石)とSn(スズ石)・W(灰重石)・Mo(輝水鉛鉱)などを伴う気成鉱床ができることがある。( )内の鉱物は、みんな標本室にあるから検索して見るとよい。ただしこれらは気成鉱床だけではなく、他のタイプの鉱床にもでることもある。

(3)比較的低温(熱水期)での元素の濃集と熱水鉱床
水の臨界温度374℃より下がると、熱水が生じる。水は様々な金属元素をわずかではあるが溶解する。特にCl、SO4やCO3などが含まれると溶解度が大きくなる。有用元素を溶かし込んだ熱水は、岩石中の割れ目を伝って上昇し、温度低下につれて溶解度が下がるので、割れ目の途中に鉱石鉱物を沈殿させる。こうしてできたのが「鉱脈」である。熱水の働きは、元素の移動メカニズムとして最も重要であり、たいていの鉱床は熱水が関与して形作られる。そこで「鉱脈」が地下資源の代名詞として使われるのである。熱水鉱床には多様なものがあるので、できた条件や鉱物の共生関係を考慮して、さらに「深熱水鉱床」「中熱水鉱床」「浅熱水鉱床」が区別される。

熱水には、マグマから直接由来した水(初生水)もあるが、周りの地層に含まれている地層水、地表からしみこんだ天水、海水など様々ある。これらが熱源となる火成岩によって暖められ、上昇し、また水が供給される、という熱水循環のサイクルができると、周囲の岩石から有用元素を抽出し、割れ目に運んでそこで沈殿させるというシステムができる。金属の水への溶解度自体はわずかであっても、地下で火成岩体が冷えるには地質学的な時間がかかるので、割れ目(鉱脈)には広い範囲から長時間かかって有用元素が集められることになる。これが熱水鉱床のメリットであり、地球上に水がなかったら、人類はこんなに豊かな資源は手に入れられなかったに違いない。

B. 変成鉱床
変成作用にも様々あるが、ここでは接触変成作用に関係する鉱床について説明する。山口県に多いからである。

石灰岩のような炭酸塩岩に熱源となる花崗岩が入ってくると、石灰岩は接触変成作用を受けて、Caをふくむ珪酸塩鉱物の集合体に変化(再結晶)する。この集合体(岩石)をスカルンといい、鉱物をスカルン鉱物という。化学式で書くと、石灰岩はほとんどCaCO3、花崗岩は約70%がSiO2であり、接触部では、CaCO3+SiO2=CaSiO3(珪灰石)+CO2 のような反応(固体反応)が起こる。珪灰石はセメントの成分鉱物の1つで、こんなことを人工的にやっているのがセメント工業である。石灰岩中にMg分があったり、泥岩(Alに富む)をふくむと、透輝石(CaMgSi2O6)や柘榴石(Ca3Al2Si3O12)などを生じる。この3つが最もポピュラーなスカルン鉱物である。前者のMgをFeが置き換えた灰鉄輝石(ヘデンベルグ輝石)や、後者のAlをFeが置き換えた灰鉄柘榴石もまた、スカルンによく産出する鉱物である。

 
こうしたスカルンの形成に伴ってできる鉱床を、スカルン鉱床という。大規模なスカルンができるためには、反応が起こるように大量の物質が移動しなくてはならない。物質移動を促進するのが熱水の働きであり、熱水が周囲から有用元素を運んできて、反応帯に沈殿させるのである。それゆえ参考書によっては、スカルン鉱床を火成鉱床(熱水鉱床)に含めて扱う場合がある。

山口県には岩国地域に、スカルンタイプのタングステン鉱床が多数あった。そのうち喜和田鉱山は、極めて高品位のタングステン鉱(灰重石)を産出するので有名である。灰重石というくらいだから、白っぽいわりに重い(大型鉱物参照)。

飛騨地域の神岡鉱山は鉛・亜鉛の、岩手県の釜石鉱山は銅と鉄(磁鉄鉱)の、日本の代表的なスカルン鉱床である。

C. 堆積性鉱床
[風化作用と風化残留鉱床]:堆積岩ができるためには、堆積物質の生産-運搬-堆積-続成作用(岩石化)の過程が必要である。堆積作用は、まず地山での堆積物質の生産から始まる。ここで働くメカニズムは風化作用である。これには物理的(機械的)風化作用と化学的風化作用がある。

物理的風化作用:砂漠地帯などでは、岩盤は昼間強い日射で温められ、夜冷える。このとき鉱物によって膨張率が違うので膨張・収縮をくりかえすうちに、岩石はばらばらに壊され砕屑粒子が生産される。この作用はなかなか強力である。寒冷地では隙間に入り込んだ水が凍結・融解を繰り返して岩石を壊すこともある。

化学的風化作用:火成岩は基本的に高温条件で安定な鉱物から構成されており、地表の環境に安定な鉱物(粘土鉱物)に変わろうとする。特に水が存在すると変化が早い。この時アルカリ元素のように水に溶けやすい元素(完全移動性成分)は流出し、Alなど難溶性成分(固定性成分)は、現地に粘土鉱物として残る。こうして元素の分別が起こり、Alが集まったのがボーキサイトである。これはAlに富んだ粘土鉱物の集合体なので鉱物ではなく岩石である。またかんらん岩から変わった蛇紋岩が風化してできたニッケル鉱床(ニューカレドニア島など)も、風化残留鉱床の例である。

[砕屑粒子の運搬と(漂)砂鉱床]:物理的風化作用で生産された砕屑粒子は、主に降雨と流水の働きにより運搬される。運搬は洪水時にどっと起こり、押し流される過程で重い鉱物と軽い鉱物の分別が起こる。重くて分解しにくい、丈夫な鉱物が特定の場所に沈積する。これが(漂)砂鉱床である。代表的なものは金や白金、ダイヤモンドやルビーなどの宝石、スズ石・チタン鉄鉱・モナズ石、磁鉄鉱(砂鉄)などがある。多くの鉱床の発見は、砂鉱床が契機となることがある。

[堆積作用と堆積性鉱床]:砕屑粒子や水に溶けた物質は、最終的には海に入る。また大洋には巨大な中央海嶺があって、盛んに火山活動や熱水活動を行って物質を生産し続けている。これらの物質は、やがて生物や化学的な過程をへて海底に堆積する。
チャート(珪石)や石灰岩、ドロマイト、マグネサイト、岩塩などは、そのものが鉱石となる。特に地球史の上で縞状鉄鉱床BIF(Banded Iron Formation)の形成は重要である。世界的に大規模な鉄鉱床は、約25億年±2億年前くらいにかけてできている。海水中に溶けた鉄が沈殿するためには酸素が必要であり、この時代に地球大気が嫌気的環境から酸化的環境に変わったことを意味している。大気組成の変化に貢献したのは、約27億年前に光合成によって酸素を出す生物(藻類:シアノバクテリア)が発生したことによると考えられている。
このようにして、資源の集積も46億年の地球史の中で起こったドラマの一環をなすのである。小なりといえど、これがこの標本室のテーマの1つでもある。

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