主な標本と見学コース
5.山口県の地質
(410号室)
山口県には日本列島の縮図のように、約4億年前以降の地層や岩石が分布します。それらをおおむね古い方から順に紹介します
山口県の代表標本は、入口より右手奥、壁際のガラスだな上段にあります。壁のパネルと照らし合わせてみて下さい。
山口県最古の岩石(美祢の正片麻岩)、長門構造帯、秋吉台石灰岩、美祢層群、周防変成岩、領家変成岩と花崗岩、アルカリ玄武岩ほか。
山口県の地形
東鳳翩山頂上から見た山口盆地と西中国山地:山口県の地形の特徴2点が良く現れています。画面中央に直線状の盆地と谷地形の連なりがあります。これらは北東-南西に延びる断層(山口盆地北西縁断層、大原湖断層系の1つ)に沿った組織地形です。山口県の主な河川は、こうした方向の断層群に支配されて流れています。また遠景は西中国山地で、標高1000m程度と500m程度の隆起準平原の地形面があり、その上に比高差100~200m位の残丘状の山がそびえています。
山口県の地質の特徴
山口県の面積は6,112㎢で、さほど広い県ではありませんが、日本列島の縮図のごとく、約4億年前の古生代シルル紀以降の様々な地質体が分布します。県東部には、北から南に古生代後期の堆積岩・中生代前期の高圧変成岩・中生代中~後期の堆積岩・中生代後期の低圧変成岩が分布し、大陸側から海洋側へ、より新しい地質体の配列が見られます。県東部は主に海溝域で形成された地質体(付加体*)が主体をなすのに対して、県西部には中生代前期から後期の陸域~陸棚に形成された堆積岩と火成岩が分布し、アジア大陸の地質との密接な関係が認められます。中生代後期には大陸縁辺部で酸性マグマ活動が活発となり、県下全域から西日本一帯に火山岩と花崗岩が広く分布します。以下ここでは「山口県地質図第3版および説明書、2012年、山口地学会」と「写真で見る山口の地質、2016年、山口地学会誌76,107-163」に準拠して、おおむね地質時代の古い方から新しい方へ、以下のような項目に分けて紹介します。
*付加体:海洋底を構成する玄武岩や遠洋性の堆積物と陸源の堆積岩などが海溝域で混在してできたと考えられる複雑な構造の地質体
1.山口県の最古期岩石:長門構造帯の正片麻岩
2.古生代の堆積岩
山口県から中国地方中央部にかけて、古生代後期の地層(付加体)が分布する地帯を秋吉帯といいます。主に石灰岩からなる石灰岩相と非石灰岩相があり、石灰岩相の代表例が秋吉石灰岩層群です。また非石灰岩相としては、秋吉台周辺に大田層群や別府層・常森層などがありますが、ここでは県東部の錦層群を紹介します。なお秋吉台の石灰岩の下位には玄武岩質の溶岩があり、これを含めて「秋吉石灰岩層群」といいます。この石灰岩は、暖かい海洋(赤道域)の玄武岩質の火山島の周囲にできた珊瑚礁が起源であると考えられています。
2-1 石灰岩相:秋吉石灰岩層群
秋吉石灰岩層群の地質構造について、明治以来多くの論争がありました。その焦点の1つが帰り水付近の逆転構造(本来下位にあるはずの古い化石を含む地層が上位にある)で、化石帯の上下関係を調べるため、ついにはボーリング調査も行われました。近年では、石灰岩のあちこちに破砕構造が見られるため、珊瑚礁起源の石灰岩をのせた海山が海溝付近で沈み込む際、破砕されて付加体の中に巻き込まれ、一部が逆転しているように見えるという考え方が有力となっています。しかしなお地元の研究者により、石灰岩層中に存在する「スパリーカルサイト」という特徴的な地層を鍵として、地質構造を詳細に明らかにしようという研究が行われています。
2-2 非石灰岩相:錦層群
錦層群:錦層群というのは、岩国市錦町周辺に分布する古生代二畳紀の地層で、主に砂岩・泥岩・凝灰岩などからなり、秋吉帯の付加体の一部を構成します。
3.中生代前期の高圧型変成岩:周防変成岩
周防変成岩:中国地方から北九州にかけて、西南日本内帯に分布する中生代早期の高圧型変成岩を周防変成岩(その分布域を周防帯)といいます。これらは従来三郡変成岩(三郡帯)とよばれていましたが、年代等が詳しく検討され、300Ma前後の蓮華変成岩と230-160Maの周防変成岩に区分されました。古生代後期~中生代前期の付加体構成岩が、沈み込み帯で高圧変成を受けてできた岩石と考えられます。
4.中生代堆積岩:玖珂層群
玖珂層群の縞状チャート:灰白色のチャートと黒色の薄い泥岩が厚板を重ねたような地層(互層)を形成します。チャートは放散虫のような珪質の骨格をもった生物を起源とする深海底の堆積岩と考えられています。玖珂層群は、チャートを主体に泥岩・砂岩と小規模な石灰岩などからなる地層です。かつて石灰岩に産出する古生代の化石から、「秩父古生層あるいは秩父地向斜」の一員と考えられてきましたが、1980年代以降、放散虫などの微化石や地質構造の研究から、古生代石灰岩を含むジュラ紀以前の様々な時代の岩石が、主にジュラ紀に海溝域で混在してできた付加体であると考えられるようになりました。
玖珂層群の礫質泥岩:泥岩・砂岩からなる砕屑物が付加体を形成する際、変形・流動しやすい泥岩中に流動しにくい砂岩が礫状に破砕され、こうした岩相を形成すると考えられています。
5.中生代後期の低圧型変成岩と領家帯
領家帯:岩国市南方から柳井市~周防大島町(屋代島)にかけて、玖珂層群に相当する地層が変成作用を受け、結晶片岩や片麻岩(領家変成岩)になり、その構造に沿って花崗岩類(領家花崗岩)が分布します。こうした地帯は、中国~近畿~中部地方から関東山地に続き、領家帯と呼ばれています。周防変成岩のような高圧(低温)型変成岩が蛇紋岩を伴うのに対して、領家変成岩のような低圧(高温)型変成岩は大量の花崗岩に伴われます。花崗岩や変成岩の年代はおおよそ1億年前(白亜紀)を示します。
5-1 領家帯の変成岩
領家変成岩:領家変成岩のミグマタイト構造:領家帯のような高温型変成帯の高変成度の地域では、変成岩的な部分と花崗岩的な部分が混じり合ったように見えるミグマタイト(混成岩)が発達します。岩石の一部が溶け出したり、花崗岩と変成岩が混合しつつある様子を示す、と考えられています。
5-2 領家帯の花崗岩
領家帯には変成岩に伴って花崗岩が広く分布します。相対的にやや早期の領家古期花崗岩と後期の領家新期花崗岩に区分されています。ただしどちらも同位体年代は1億年前くらいを示します。また山陽帯の花崗岩とも同位体年代の上では大きな違いはありません。
6.中生代陸棚型堆積岩
山口県西部には、美祢層群・豊浦層群・豊西層群・関門層群(堆積岩優勢層)など、成層した礫岩・砂岩・泥岩などからなる中生代の地層が分布します。その中には化石や石炭層が含まれ、陸棚のような浅海域あるいは汽水域~淡水域など大陸性の基盤上に堆積した地層と考えられます。
6-1 美祢層群
美祢層群は中生代三畳紀の地層で、主に礫岩・砂岩・泥岩などからなり、しばしば石炭層を挟んでいます。美祢市大嶺地区には良質の無煙炭を産し、かつて大嶺炭田として採掘されました。
6-2 豊浦層群
6-3 豊西層群
豊西層群は、中生代ジュラ紀後期から白亜紀初期の地層で、下関市西部の日本海側に分布します。主に砂岩・泥岩と礫岩を含む陸成~汽水成の地層です。下関市吉母の海岸では、この地層と汽水生の貝化石の密集した化石床がよく観察できます。
6-4 関門層群(堆積岩優勢層)
関門層群:関門層群は、北九州から下関市を中心に分布する白亜紀前期の地層で、下関市西部から吉見の海岸によく露出します。下部を脇野亜層群、上部を下関亜層群といい、下関亜層群は、さらに塩浜層・北彦島層・筋ヶ浜層・福江層に区分されます。下位(早期)の脇野亜層群から下関亜層群の塩浜層までが陸棚性の堆積岩優勢層で、北彦島層から上位が火山岩優勢層となり、安山岩質の火山噴出物を多量に含みます。また堆積岩では著しく赤色の泥岩(頁岩)・砂岩が特徴的で、乾燥気候条件での河川成堆積層と考えられています。下関亜層群の年代は110~100Ma(関門期)。以後白亜紀後期になると酸性(流紋岩質)のマグマ活動がさかんとなり、県下全域に広がって行きます。
7.中生代白亜紀の火山岩と深成岩
中生代後期になると、アジア大陸の東縁では次第にマグマ活動が活発となります。まず関門層群上部層など下関~北九州地域での安山岩質のマグマ活動に始まり(関門期:約110~100Ma)、次に周南層群などの流紋岩質の火山活動とカルデラの形成、地下での花崗岩の貫入などの火山―深成活動が盛んとなりました(周南期:100~90Ma)。白亜紀後期になると、珪長質マグマ活動は一層大規模となり、阿武層群などの火山岩や花崗岩が県下全域に形成され(阿武期:90~80Ma)、同様の岩石はさらに山陽地域~西南日本一帯に広がっています。
7-1 関門層群(火山岩優勢層)
7-2 周南層群
周南層群:周南層群は、白亜紀後期に陸上に噴出した安山岩~デイサイト~流紋岩質の凝灰岩などを主体とする地層で、主に山口県中~南部に分布します。年代はおよそ100~90Ma(周南期という)くらいで、地下ではほぼ同時期の深成岩が貫入し、カルデラの形成を伴う火山-深成活動があったことが知られています。山口~小郡地域には山口カルデラ、宇部~美祢地域には吉部カルデラがあり、陥没構造に伴う環状岩脈の連続が確かめられています。山口市背後の鳳翩山花崗岩体もこの時期の深成岩体です。
周南期の深成岩:鳳翩山花崗岩体:東鳳翩山の山体西半分から西鳳翩山にかけて、周南期(約100~90Ma)の花崗岩質の深成岩-鳳翩山花崗岩体が分布します。写真の東鳳翩山山頂部は、同時期の石英斑岩(~珪長岩)で、花崗岩に比べ細粒ち密で浸食に強いため、突き出た地形が残りました。
7-3 阿武層群
阿武層群:阿武層群は、白亜紀後期に周南層群にやや遅れて(約90~80Ma)、主に陸上に噴出した珪長質(流紋岩質~デイサイト質)の火山岩~火山砕屑岩からなる地層です。こうした地層は、周南層群に比べさらに規模を拡大し、山口県の阿武層群、島根県の匹見層群、広島県の高田流紋岩、中部地方の濃飛流紋岩など、日本各地に分布します。またほぼ同時に地下では大規模な花崗岩が形成され、カルデラ構造を伴う火山―深成活動が知られています。山口県では佐々並カルデラや白滝山カルデラなどがあり、花崗岩体は宇部~防府~周南~岩国、下関~萩~宇佐地域などに分布します。同時期の花崗岩は、山陽地域一帯、近畿・中部~東北日本など日本各地に広く分布しています。
阿武層群の岩石:山口市阿東、長門峡付近
7-4 山陽帯花崗岩
山陽帯花崗岩:白亜紀後期、地表では珪長質の火山岩(流紋岩~デイサイト)が噴出して阿武層群などを形成するいっぽうで、地下ではほぼ同時期(阿武期:90~80Ma)に花崗岩が形成されました。それらは県下全域に分布し、さらに山陽地域一帯に広がり、広島花崗岩あるいは山陽帯花崗岩と呼ばれています。
8.古第三紀の火山岩と堆積岩
8-1 田万川火山岩
田万川火山岩:田万川火山岩は、古第三紀に噴出した安山岩とデイサイト質~流紋岩質の凝灰岩からなる地層で、主に旧田万川町~須佐町(~一部島根県)に分布します。田万川火山岩の噴出に伴って陥没体(田万川カルデラ)が形成され、地下では同質の花崗岩(田万川花崗岩)が貫入しています。同時期のマグマ活動(火成岩)は、油谷地域(今岬玄武岩、津黄安山岩)、角島地域(尾山の安山岩)にも見られ、約43~30Ma 程度の年代を示します(田万川期と呼んでいます)。
8-2 宇部層群
宇部層群:宇部層群は、古第三紀始新世の地層で、宇部市~山陽小野田市~山口市阿知須にかけて分布し、下位から厚東川礫岩層・宇部夾炭層の2層に区分されます。宇部夾炭層は、主に砂岩泥岩互層と礫岩層からなる地層で、炭層をはさみ、かつて宇部炭田として採掘され、宇部・山陽小野田地域の工業発展の礎となりました。
8-3 日置層群
日置層群:日置(ヒオキ)層群は、油谷地域の旧日置(ヘキ)町~黄波戸周辺および下関市特牛などに分布する古第三紀漸新世の地層です。海成~非海成(陸成)の地層で、主に礫岩・砂岩・泥岩からなり、凝灰岩や炭層を挟むことがあります。
9.新第三紀の堆積岩:須佐層群
須佐層群:須佐層群は、新第三紀中新世の浅海成の地層で、下位から上位に向かって、主に礫岩・砂岩・泥岩から構成されます。およそ1500万年前くらいに堆積し、須佐高山の周囲に分布します。高山地域中央部には高山斑れい岩があり、周囲の須佐層群は接触変成を受けています。油谷地域の油谷湾層群もほぼ同時代の地層です。
ホルンフェルスってなあに?
観光客のいる畳岩の奥、岬の白っぽく見える部分が高山斑れい岩体、右側の茶色い部分が須佐層群、後方の島が山島。約1500万年前、須佐層群の中に玄武岩質のマグマが入ってきて地下で固結し、斑れい岩ができました。須佐層群の堆積岩は、斑れい岩体の熱により焼き固められ接触変成岩(ホルンフェルス)となり、その後全体が上昇して現在の姿となりました。
10.新第三紀~第四紀の火山岩
山口県の新第三紀~第四紀の火山活動:新第三紀の火山岩には、高山斑れい岩とほぼ同時期の山島火山岩(約1600~1500万年前)、瀬戸内火山岩(約1500~1200万年前)、冠高原火山岩(約890万~820万年前)、山陰火山岩(約1200万~780万年前)があります。第四紀には、下関火山岩(約160万~120万年前)、青野火山岩(約60万~35万年前、16万~10万年前)、阿武火山岩(200万~160万年前、80万~8800年前)が知られています。
10-1 瀬戸内火山岩
瀬戸内火山岩:瀬戸内火山岩は、山口県の瀬戸内沿岸の島や半島部の皇座山をはじめ、香川県の屋島、近畿地方の二上山、愛知県設楽地域などに分布します。細粒ち密な安山岩質の岩石で、Mg分を多く含むので高マグネシウム安山岩といいます。香川県の「讃岐石」が有名でSanukitoidともよばれます。マントルに由来する初生マグマに近い組成を持つ岩石と考えられています。
- 周防大島(屋代島)の飯の山:領家花崗岩の上に噴出した瀬戸内火山岩の残丘
10-2 山陰火山岩
山陰火山岩:山陰火山岩は、約1200万~780万年前に噴出し、萩市見島や青海島~油谷~川尻岬~角島など日本海側に分布します。主にアルカリかんらん石玄武岩などからなり、ホットスポット型(プレート内)火山岩であるとされています。
10-3 下関火山岩
下関火山岩:下関火山岩は、下関市南部および六連島に分布し、主にかんらん石玄武岩からなります。従来は山陰火山岩の一部とされてきましたが、年代が約160万~120万年前と若いので、山口県地質図第3版(2012)では独立して扱われています。
10-4 青野火山岩
青野火山岩:青野火山岩は、津和野~徳佐地域から南方にかけて、県央部では長者ヶ原・金峰山、県南部では周南市の四熊ヶ岳・嶽山などに分布します。主に角閃石安山岩~デイサイトからなり、大山火山帯に属するとされます。約60万~35万年前と16万~10万年前の、比較的粘性の高いマグマ活動により、ずんぐりした形の火山体(溶岩円頂丘)を形成します。
10-5 阿武火山岩
阿武火山岩:阿武火山岩は、山口県北東部の田万川~須佐~阿武~むつみ~福栄~萩にかけて、50個ほどの小火山として分布します(阿武単成火山群ともいいます)。主に玄武岩~安山岩からなり、 200万~160万年前と80万~8800年前の活動期が知られています。青野火山岩に比べて粘性の小さな溶岩のため、萩市大島・相島などの島々や内陸の千石台・平蕨台など、頂上の平らな溶岩平頂丘あるいは溶岩台地を形成しています。萩笠山は約1万1000年前の溶岩台地と頂上部に8800年前のスコリア丘をもち、2003年の気象庁の定義改変により、活火山とされました。