主な標本と見学コース
4.日本の地質 (410号室)
日本列島の骨格をなす主な地層や特徴的な岩石について現地の産状や景観を含めて解説します
410室中央のガラスケースとその下の引出:正面右回りで、北海道(日高帯と神居古潭帯、各種鉱床)→東北(黒鉱鉱床など)→関東(日立変成岩と日立鉱山、ボニン岩)→中部(飛騨帯と神岡鉱山、壁側にもあるよ)。
下の引出を向こうに回って、中国(周防変成岩、都茂鉱山など)→四国(三波川帯、黒瀬川帯、別子鉱山など)→九州(黒瀬川帯、長崎変成岩、菱刈鉱山など)(→山口)の順。
日本列島の地質の骨組み
日本列島は構成岩石や年代の特徴と地質構造に基づいて、いくつかの地質体に区分されます。日本列島は、まず糸魚川-静岡構造線(糸静線)で東北日本と西南日本に二分され、次に西南日本は中央構造線(MTL)により日本海側の西南日本内帯と太平洋側の外帯に区分されます。時間軸で見ると、新第三紀以降の火山岩におおわれた地域とその下にある地質体(基盤岩)に分けられます。前者は主に島弧の内帯側、特に東北日本に広く分布し、グリーンタフ地域と呼ばれていました。新第三紀以前の古い地質体は、西南日本に広く現われています。北から南に日本海側(大陸側)から太平洋側に向かって、飛騨帯・飛騨外縁帯・美濃-丹波帯・領家帯・[中央構造線]・三波川帯・秩父帯・四万十帯の順に東西方向に延びた地質体が配列します。このうち飛騨帯は300Ma(3億年前、Maは100万年前の単位)以前の大陸性の地塊であるのに対して、飛騨外縁帯は古生代の、美濃・丹波帯~秩父帯は主に中生代の、四万十帯は中生代後期~新第三紀の、付加体あるいは付加体起源の変成帯であると考えられ、太平洋側に向かってより新しい地質体が配列する傾向があります。
ここでは日本の火成岩(深成岩、特に花崗岩)や変成岩を中心に、少数の標本を選び、ごく簡単な説明をつけました。また現地に行く機会は中々得られないと思われるので、岩石の産状や周りの景観を示す写真を入れました。対象とする地域は、主に変成帯あるいは基盤岩といわれる地帯であり、日本列島の骨格をなす主要な地質体をおおかたカバーしています。本項を手がかりに、実物を見ながら、色々な文献などを読み、理解を進めて下さい。日本の地質に関する文献は極めて多岐にわたりますが、本項の記述や年代値は、主に「日本の地質1~9、共立出版」や「地学事典、平凡社」などを参考にしています。
→もっと知りたい方へ、日本列島の地質
1.日高帯・神居古潭帯
日高帯:北海道の中央部、日高山脈に沿って南北に伸び、日高累層群の堆積岩と変成岩・深成岩などからなる地帯を日高帯といいます。日高累層群は、白亜紀~古第三紀の砂岩・泥岩・チャート・緑色岩(やや変成した火山岩)からなる複雑な構造の地質体です。変成岩は東から西へ変成度が強くなり(緑色片岩相からグラニュライト相、同位体年代は50~20Maくらい)、中央部に20~15Maくらいの花崗岩やミグマタイトが分布します。日高帯中央部より西側には、圧砕岩(ミロナイト)帯を挟んでかんらん岩や斑れい岩を主体とする地帯(オフィオライト)があり、東側の島弧地殻が海洋地殻の上に衝上したと考えられています。
十勝平野から見た初夏の日高山脈
日高山脈の最高峰、幌尻岳(2,052m)と氷河地形(カール)
2.北上帯
東北地方の地質:東北地方は、おおむね北上川-阿武隈川に沿った低地帯を境として、東側の主に古生代~中生代の堆積岩と深成岩・変成岩から構成される北上帯と阿武隈帯、脊梁山地及びその西側の新第三紀以降の火山岩優勢地域(グリーンタフ地域)に区分されます。火山岩優勢地域にも、大平山地・朝日山地・飯豊山地などに中生代の花崗岩などが存在し、火山岩類の下位に中生代以前の基盤構造が延びていると推定されます。新第三紀火山岩地域は、黒鉱鉱床を伴うことで有名です。 北上帯:北上帯は北上山地を構成し、早池峰山付近を通る北西‐南東の断層帯(早池峰構造線)を境として、北部北上帯と南部北上帯に区分されます。北部北上帯は、主に砂岩・泥岩・チャートと少量の石灰岩・火山岩などからなり、中生代ジュラ紀~白亜紀前期の付加体とされ、同様の地層は北海道渡島半島に続いています。南部北上帯は、古生代シルル紀から中生代白亜紀までの化石を含む、おおむね浅海性の非変成の石灰岩や泥岩・砂岩を主体とした地層から構成されます。大船渡付近ではシルル紀川内層の下位に氷上花崗岩があるとされます。また北部・南部北上帯ともに、こうした地層の中に白亜紀の花崗岩体(120-110M)が広く分布しています。
3.阿武隈帯・日立変成岩
阿武隈帯:阿武隈帯は、西側を棚倉構造線、東側を双葉断層で境され、主に白亜紀花崗岩と変成岩から構成されます。東縁部の双葉断層と畑川破砕帯に挟まれた地帯には、松ヶ平、割山、山上、八茎など変成岩の小岩体が分布し(松ヶ平-母体変成岩)、北上帯の母体変成岩に相当する古い基盤岩とされています。阿武隈帯の変成岩は、主に南部の御斎所-竹貫地域と南端部の日立~常陸太田地域に分布します。
阿武隈山地遠望:準平原状の低平な山地を形成する、日立市西方より北方を望む
緑柱石Beryl:エメラルドやアクアマリンの鉱物名を緑柱石といいます。福島県石川町、標本番号9337B
グラフィックペグマタイト:石英と長石が独特の形態の連晶をなすものを文象構造(Graphic structure)といいます。白い長石中に楔形文字のような石英が配列します。福島県石川町、標本番号B027

赤沢層の流紋岩質岩頸:日立変成岩の原岩の一部となった約5億年前の流紋岩からなる岩峰。流紋岩は変成して白雲母片岩となり、含銅硫化鉄鉱床を挟む。日立市御岩山
4.飛騨帯・飛騨外縁帯
飛騨帯:富山県東部~南部~岐阜県北部にかけて、中生代ジュラ紀の手取層群におおわれて分布する片麻岩と花崗岩を主体とする地質体を飛騨変成帯(飛騨帯)といいます。一部は石川県能登半島・白山地域、福井県にも分布します。主要部分は240-250Ma くらいの変成作用を受け、300Ma以前の花崗岩~斑れい岩などの深成岩が片麻岩となっています。変成した花崗岩の中には堆積岩起源の変成岩が含まれ、20億年を超す砕屑性のジルコンが含まれます。主要部分の形成年代は古生代(~中生代早期)ですが、もとになった岩石(原岩)には古い先カンブリア時代の痕跡が含まれているようです。まだ年代やアジア大陸との関係について議論がありますが、島弧の最も内側にあって大陸地殻の性質を持った地質体であると位置づけられています。
黒部川と宇奈月帯の山々:宇奈月結晶片岩は山体中腹の支沢に露出します。4月末、愛本付近より北方を望む。頂上稜線は駒ヶ岳から僧ヶ岳。
飛騨片麻岩:角閃石片麻岩:飛騨帯には、300Ma前後の閃緑岩や花崗岩などの深成岩を起源とする片麻岩が分布することが分かってきました。これらもその一部と考えられます。富山県魚津市片貝川
“オバケダイク”
神岡町付近の高原川河床には、花崗片麻岩中にまるで“火の玉”を連ねたような奇妙な岩石があり、神岡鉱山では「オバケダイク」と呼び慣わされていました。実は花崗岩と玄武岩質の岩石との同時性岩脈(シンプルトニック岩脈)が変成したものです。岐阜県神岡町、標本番号D408
眼球片麻岩は、花崗岩体との境界に沿って分布し、赤紅色のカリ長石眼球を持った特徴的な岩石です。



朝日岳より白馬岳・柳又谷方面を望む:このあたり一帯には複雑な構造の古生層と変成岩や蛇紋岩が分布します。白馬岳はかつて大蓮華岳とよばれ、蓮華帯はその名にちなんでいます。
飛騨外縁帯の岩石
5.美濃‐丹波帯
美濃-丹波帯:主にチャートと砂岩・泥岩などから構成されます。赤坂などに古生代化石を含む石灰岩があるため、かつては「秩父古生層」とされていましたが、全体として中生代ジュラ紀にできた付加体と考えられます。
6.領家帯
領家帯:美濃-丹波帯の南部、中央構造線の北側の地帯は、白亜紀後期に広域変成作用を受けて紅柱石や珪線石を生じるような高温型(低圧型)の変成岩となり、また多量の花崗岩を伴います。こうした地帯を領家帯といい、中部地方の天竜川沿いから近畿地方の三重-奈良-大阪南部、瀬戸内地域~山口南部を経て北部九州に続きます。また関東平野の基盤にも伏在すると考えられます。
瀬戸内海に面した地域や島々には領家変成岩と花崗岩が分布します。写真は山口県上関付近の領家帯の風景で、中央左手の皇座山は瀬戸内火山岩におおわれます。→山口県の地質
7.三波川帯
三波川帯:中央構造線の南側、西南日本外帯側に分布する塩基性~泥質・砂質の結晶片岩や蛇紋岩などから構成される地帯で、関東山地から中部地方の天竜川沿い~紀伊半島~四国山地~九州佐賀関まで連続します。中生代の付加体が、白亜紀に高圧型の変成作用を受けた地帯です。
吉野川が四国山地を横切るあたりでは、急流が三波川変成岩を浸食して険しい渓谷地帯となります。徳島県大歩危付近。

ざくろ石角閃岩の露頭:愛媛県四国中央市関川。
8.秩父帯・黒瀬川帯
秩父帯と黒瀬川帯:秩父帯は三波川帯の南側に並走して、関東山地から九州まで連続します。主にチャートや砂岩泥岩などからなり、古生代の石灰岩体を含みます。かつては「秩父古生層」と呼ばれましたが、美濃‐丹波帯などと同様の中生代ジュラ紀の付加体です。秩父帯中には、シルル紀の石灰岩や深成岩、450~400Maの古い変成岩の小岩体が連続する地帯-黒瀬川帯があり、これを境に北帯と南帯に区分されます。秩父帯はおおむね非変成ですが、変成作用を受けた部分もあり、三波川変成作用との関係が議論されています。
9.四万十帯
四万十帯:主にチャートと砂岩泥岩などからなる複雑な構造の地質体で、秩父帯との境界をなす仏像構造線の南側に、房総半島から琉球列島にかけて広く分布します。大きく北帯と南帯に区分され、北帯は白亜紀の、南帯は古第三紀~新第三紀中新世の付加体です。また四万十帯各地に中新世の花崗岩や珪長質火山岩が分布します。
四万十川の景観、沈下橋が見える。四万十川は、かつて低平地を蛇行しながら流れていましたが、地域全体が上昇して浸食が復活した後も、河川の浸食量が上昇量より大きかったため、元の曲流が保持されています(穿入曲流といいます)。
10.隠岐変成岩・長崎変成岩・肥後変成岩・八重山変成岩
西南日本には、隠岐島後・長崎周辺・熊本周辺・石垣島などに変成岩や深成岩が分布します。それらは小規模でもあり、4~8の主要な地質体から離れているため、どこに対応するのか種々議論があり、まだ十分に解明されていないこともあります。ここではその様な変成岩をまとめて紹介します。 隠岐変成岩:隠岐島後には、新第三紀以降の火山岩類の基盤として、片麻岩やミグマタイト質の花崗岩が分布します。これらは従来、飛騨帯の延長と考えられ「飛騨-隠岐帯」とよばれ、西南日本の最も内帯側にある古い大陸性地殻の一部と位置付けられてきました。しかし飛騨本体とは400㎞もの海で隔てられ、直接連続関係を確かめることはできません。
隠岐島後の海岸風景
隠岐変成岩:黒雲母片麻岩を貫く白雲母花崗岩:画面中央に片麻岩の片理面を切って白雲母花崗岩(S-type花崗岩)の岩脈があります。この標本のK-Ar年代は約160Maです。島根県隠岐の島町、標本番号F104

隠岐変成岩:角閃岩:泥質片麻岩(黒雲母片麻岩)にはさまれて層状(左上)~レンズ状(右上)に産出します。苦鉄質火山岩を起源とした変成岩です。斜方輝石・単斜輝石を含む高変成度(グラニュライト相)の変成岩です。島根県隠岐の島町、標本番号F065

野母崎付近の長崎変成岩(1979年当時)