ゴンドワナ各地の地質と岩石
インド
India
ヒマラヤ山脈の南、インド半島の大半は先カンブリア時代の岩石から構成され、これらをインド楯状地Indian shieldという。中央部のデカン高原には約50万k㎡にわたって玄武岩台地が広がるが、その下位は楯状地である。インド楯状地の中で始生代クラトンは5地域あり、南部のDharwar craton、中央部のBastar craton、 東部のSinghbhum craton、北部のAravalli craton とBundelkhand cratonである。始生代クラトンは原生代の変動帯で連結あるいはせん断帯で境される。主要な変動帯は、東海岸に沿ったEastern Ghats belt、 中央インド構造帯Cenral Indian Tectonic Zone(CITZあるいはSatpura belt)、南部の Pandyan belt(Kerala khondalite beltを含む)である (cf. Ramakrishnan and Vaidyanadhan、 2008)。
始生代クラトンの中で最も広く露出し、岩相がよくそろっているのがDharwar cratonである(Fig.3)。そこは主として花崗質岩(TTG:Tonalite–Trondhjemite –Granodiorite)起源の片麻岩Peninsular gneissと表成岩類からなるグリーンストン帯から構成される。主要な構造は南北方向を示し、ほぼ中央部のChitradurga shear zoneでWestern Dharwar craton(WDC)とEastern Dharwar craton(EDC)に分けられる。WDCは、34~30億年前のTTG起源の片麻岩類および花崗岩類(Chikmagalur granite やHalekote trondhejemite)と3期のグリーンストン帯からなる。Hassan-Chikmagalur地域(Karnataka nucleus: Radhakrishna and Naqvi、1986)には、34-33億年前の最も古いTTG起源のGorur gneissがある。
グリーンストン帯は、komatiite等の苦鉄質火山岩と珪岩・泥質岩・石灰岩(QPC)やチャート・BIFからなる。それらは最古期(33億年前)のSargur Groupと中~新期(28~26億年前)のBababudan GroupとChitradurga Groupに区分され(Fig.3-2)、中~新期の2者をあわせてDharwar Supergroupという。Bababudan Groupは、珪岩に富む基底礫岩Kartikere cglでTTG起源の片麻岩類を不整合におおい、30億年前前後に広域変成作用が想定される。グリーンストン帯は全域に多数あり、変成度や岩相によって区分されたものもあり、今後の時代論上の進展が期待される。
一方EDCには、全域的に27~25億年前前後のTTG起源の片麻岩とほぼ同時期の花崗岩類が多く(Dharwar batholithという、写真参照)(Fig.3-2)、グリーンストン帯は少ない(ほとんどが新期)。WDCに近い部分では古期のTTGの残存片remnantsが見られることもある。始生代末の25億年前には、WDC・EDC合わせて全域的に花崗岩形成があり、EDCには南北300kmに達するClosepet花崗岩体が形成された。さらに引き続いて全域的に広域変成作用を受け、北部は緑色片岩相で、南に向かって変成度が上昇し、クラトン南部はグラニュライト相となる(Northern granulite belt)。Bangalore郊外のKabbaldurgaでは、Closepet花崗岩の一部がチャーノカイト化している様子が観察できる。クラトン東部は、原生代中期以降のCuddapah basinにおおわれる。
インド東部のシンブムクラトンSinghbhum cratonにも古期岩類が良く残っている。最古期岩相は、始生代前期の塩基性火山岩起源の角閃岩とTTG起源の片麻岩で、上位に始生代中期のIron Ore Groupが分布する。これは文字通りBIFからなり、インド鉄鋼業の発祥の地として開発されてきた。クラトンには、始生代中期のSinghbhum graniteが広く分布し、原生代の地層群Kolhan Groupや火山岩類に覆われる。
インド西部のRajasthanには、25億年前の片麻岩類(Mewar gneiss あるいはBanded gneiss complex)があり、上位に原生代早期~中期のAravalli Supergroupとさらに原生代中~後期のDelhi Supergroupが分布する。基盤岩類は始生代末にグラニュライト相の変成作用を受け、また上位層には原生代中期と原生代後期に褶曲と変成作用・花崗岩の貫入があり、Aravalli-Delhi褶曲帯となって中央インド構造帯の一部を構成する。
インド中央部のNagpur一帯には、始生代Bastar cratonの片麻岩類と原生代の表成岩類からなるSakoli beltとSausar beltが分布する。Sakoli beltは、基盤のBastar cratonを構成するAmgaon gneissの上位にある砂泥質岩と火山岩からなる地層で、三角形をした分布域をもつ。Sausar beltは砂泥質岩や石灰珪質岩とともにマンガンに富む珪質岩gonditeを含み、マンガン鉱床を形成する。また基盤の片麻岩が再変成したTirodi gneissを挟む。原生代中~後期に変動を受け、Satpura belt(中央インド構造帯)を構成する。基盤およびSausar belt内にはグラニュライト地帯もある。両地帯の関係や年代論にはまだ未解決の点が多い。
Eastern Ghats beltは、Godavari riftとMahanadi riftによって分断されるが、インド東岸に沿って1000kmも続く原生代変動帯である。UHT(超高温変成岩)を含むグラニュライト相の変成岩(khondalite)やcharnockiteで特徴づけられる。変成時期は何度かあり、全体に10億年代が多く見られるが、20億年を超えるものや14億年の斜長岩(Chilika lake)も知られている。Singhbhum cratonとはshear zoneで境され、基盤の角礫を含む浅所貫入火成岩を伴う。
Pandyan beltは、インド南端の原生代変動帯で、Palghat-Cauvery shear zoneでDharwar cratonと境される。主にグラニュライト相の変成岩とcharnockiteよりなる。以前はSouthern granulite terrainの一部とされたが、これにはDharwar craton南部の始生代のグラニュライト地域も含まれていて混乱が生じるので、 Dharwar cratonの方はNorthern granulite terrainとして区別し、Pandyan beltと呼ぶようになった。この地帯の内部も複雑で、多数のshear zoneで区切られたブロックからなる。北部には始生代の年代や20億年以上の年代が知られるが、全体には7~5億年前のPan-Africanの変動を受けている。特に最南端のAchankovil shear zone以南のKerala khondalite beltは、UHTを含むPan-Africanのグラニュライト相変成帯である。
試料採集の年次と地域及び関連する報告書は以下のとおりである(詳細は「ゴンドワナ資料室標本カタログ実物で見る地球史40億年,2012,山口大学」を参照されたい)。
- 1970年 Dharwar craton(Madras近郊)
- 1980年 Dharwar craton(Mysore, Nilgiri hill)
- 1982年 Dharwar craton (Hyderabad近郊、Belgaum-Goa)
- 1992年 Kerala, Dharwar, E.Ghats (Visakhapatnam, Bhubaneswar) , Singhbhum (cf. Yoshida et al., 1994)
- 1994年 Dharwar craton (cf. Yoshida et al., 1995)
- 1995-96年 Dharwar craton
- 1999年 Aravalli craton, Aravalli-Delhi belt(cf. Kano et al., 2000)
- 1999-2000年 Nagpur (Sakoli and Sausar belts) (cf. Kano et al., 2001)
- 2006年 Dharwar craton
- 2008年 Dharwar craton
- 2009年 Dharwar craton
参考文献
- GSI Map (1981) 1/500,000 Geological and mineral map of Karnataka and Goa. Geological Society of India.
- Kano, T., Baba, S., Biju, S.S., Biswal, T.K., Chauhan, N.K., Eto, T., Gyani, K.C., Jena, S.K., Pandit, M.K., Wada, H. and Yoshida, M. (2000) Geological
fieldwork in the Aravalli and Delhi belts in Rajasthan, India, 1999. Jour. Geosci. Osaka City Univ., 43, 149-163. - Kano, T., Yoshida, M., Wada, H., Satish-Kumar, M., Roy Abhinaba, Bandhopadyay, B.K., Khan, A.S., Pal, T., Huin, A.K., Bhowmik, S.K. and Chattopadhyay, A. (2001)
Field studies in the Sakoli and Sausar belts of the Central Indian Tectonic Zone, 1999-2000. Jour. Geosci. Osaka City Univ., 44,17-39. - Radhakrishna, B.P. and Naqvi, S.M. (1986) Precambrian continental crust of India and its evolution. Jour. Geol., 94, 145-166.
- Ramakrishnan, M. and Vaidyanadhan, R. (2008) Geology of India, vol.1. Geological Society of India, 556p.
- Yoshida, M., Arima, M., Kano, T., Kunugiza, K., Venkata-Rao, M., Shirahata, H., Sohma, T., Unikrishnan-Warrier, C., Venkatesh-Ragavan and Yamaguchi, Y.
(1994) Geological survey in southern to eastern Peninsular India, 1992. Jour.
Geosci. Osaka City Univ., 37, 31-54. - Yoshida, M., Arima, M., Kano, T., Kato, Y., Kunugiza, K., Shirahata, H., Sohma, T., Suwa, K., Tainosho, Y., Tani, Y., Unikrishnan-Warrier, C., Venkata-Rao, M., Wada, H., Yamaguchi, Y. and Yoshikura, S. (1995) Geological survey in southern
to eastern Peninsular India, during 1993-1994. Jour. Geosci. Osaka City Univ., 38, 115-151.