鉱物・岩石基礎知識
2.鉱物
2.1 鉱物とは
天然に存在する固体の無機物質で、ある定まった化学組成と結晶構造(規則的なイオンの配置)を持った物質を「鉱物」という。ただし火山ガラスなどの非晶質物質や天然に産する有機物(有機鉱物)を含めることもある。鉱物は、結晶構造(結晶系)と化学組成の組み合わせで区分される。なお「水」は融点の低い(0℃)の鉱物と考えられ、単独で均質な地球上最大の地質体(岩体、大陸氷床)を作る。
[固溶体]:鉱物は一定の化学組成をもつ、とはいうものの、ある幅を持っており、一定の結晶構造を保ったまま、大きさ(イオン半径)の似た元素が互いに色々な割合で置換しあうことがある。これを「固溶体」という。かんらん石や輝石・長石などの主要造岩鉱物の多くは幅広い固溶体を持っている。
2.2 結晶系と結晶形態
鉱物(結晶)は平らな外面(結晶面)で囲まれた規則正しい立体形を示す。この形態を、結晶面の対称性という観点で整理すると、以下の6つの結晶系に分けることができる(図3、三方晶系を入れると7つ)。これらはミクロの目で見ると、結晶を作る最小単位(単位格子)のイオン配置の対称性に基づいている。標本室には、各結晶系の代表的な鉱物を展示しているから、壁のパネルの結晶図と見比べながら観察してほしい。
等軸晶系 | 3本の結晶軸の長さが等しく、各々90度で交わる(サイコロ状) |
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正方晶系 | 2軸の長さが等しく、3軸は90度で交わる(直方体) |
斜方晶系 | 3軸の長さが異なり、3軸は90度で交わる |
単斜晶系 | 3軸の長さが異なり、1軸が90度以外の角度で交わる |
三斜晶系 | 3軸の長さが異なり、各々90度以外の角度で交わる |
六方晶系 | 3軸が各60度で交わり、1軸が3軸に対し90度で交わる (三方晶系を区別する場合がある) |
2.3 鉱物の化学組成による分類
鉱物を化学組成の観点で整理すると、
・元素鉱物Native elements(金や白金のように単体で産する鉱物)、
・硫化鉱物Sulphides(-Sの化学式で表される鉱物)、
・酸化鉱物Oxides (-Oまたは水酸化鉱物-OH)、
・珪酸塩鉱物Silicates(珪素Siと酸素の結合を骨格とする鉱物)、などがあり、
このほか
・ハロゲン化鉱物Halides(FやClを含む鉱物)
・炭酸塩鉱物Carbonates(化学式にCO3を含む鉱物)
・硫酸塩鉱物Sulphates(化学式にSO4を含む鉱物)
・燐酸塩鉱物Phosphates(化学式にPO4を含む鉱物)
・硝酸塩鉱物Nitrates(-N03)、ホウ酸塩鉱物Borates(-BO3ほか)、
・砒酸塩鉱物Arsenate(-AsO4)、タングステン酸塩鉱物Tungstates(-WO4)、
・モリブデン酸塩鉱物Molybdates(-MoO4)、有機鉱物Organics、
などがある。地球科学標本室の鉱物標本は、これらの化学組成に基づいて分類・登録してある。
2.4 珪酸塩鉱物 Silicate
地殻およびマントルは、鉱物で言えば、主に珪酸塩鉱物でできている。珪酸塩鉱物の結晶構造は、正4面体の中心に1個の珪素イオンを、4つの角に酸素イオンを配した構造を骨格としている(図4)。この4面体の結合の仕方により、以下のグループに分けられる(図5)。珪酸塩鉱物は、鉱物の中で最も種類が多いので、登録番号も以下の区分に従って割り振ってある。
a. ネソ珪酸塩Nesosilicate [〇-SiO4]: 独立した4面体を結晶構造の基本とする。〇の中にMgやFeが入る。カンラン石など。
b. ソロ珪酸塩Sorosilicate [〇-Si2O7]:2つの4面体が1つの酸素を共有した結晶構造を持つ。緑簾石など。
c. サイクロ珪酸塩(環状珪酸塩)Cyclosilicate[〇-Si3O9,〇-Si4O12,〇-Si6O18]:3つ以上の4面体が酸素を共有して環状の結晶構造を持つ。菫青石など。
d. イノ珪酸塩(鎖状珪酸塩)Inosilicate [輝石 〇-SiO3, 角閃石 〇-Si4O11]:4面体の2つの酸素を共有して鎖状にのびた構造を持つ。1本の鎖からなる輝石と2本の鎖からなる角閃石とがある。
e. フィロ珪酸塩(層状珪酸塩)Phyllosilicate[〇-Si2O5]:4面体の3つの頂点に位置する酸素を共有して、2次元的に広がった構造を持つ。そのため平面的なへき開が発達する。雲母や緑泥石など。
f. テクト珪酸塩(網状珪酸塩)Tectosilicate[-SiO2]:4面体の4つの頂点の酸素を共有して3次元的に広がる網目状構造を持つ。長石類など(石英を含めることもある)。
鉱物は、様々な色と形態を示すが、これらは基本的に構成元素の種類と結晶構造に支配されている。ともあれ、美しい鉱物標本を見れば、鉱物学はけして難解な学問ではなく、楽しい科学であることが実感できるだろう。