ゴンドワナ各地の地質と岩石

東南極
East Antarctica

南極

セルロンダーネ山地での野外調査(大和田正明提供)

南極大陸Antarcticaは、面積約1230万k㎡余、日本の30倍以上の大陸である(Fig.1-1)。オーストラリアと同様、他の大陸と直接接していない孤立した大陸である。その大半は平均厚さ2000mに達する大陸氷床に覆われるが、海岸部や内陸山地にわずかに露岩域があり、そこを手掛かりに内部の地質構造が知られる。東側に半円状に大きく張り出した部分を東南極East Antarcticaといい、西側の尻尾状に湾曲した部分を西南極という。東南極の西のへり、おおむね30度-150度の経線に沿って南極横断山脈Trans Antarctic Mountainsが走り、東南極と西南極とを分ける地形的・地質的な境界となっている。

南極大陸と昭和基地

南極大陸と昭和基地

東南極は大半が先カンブリア時代の岩石からなり、東南極楯状地East Antarctic shieldという。25億年前以前の始生代(または太古代)の岩石は、エンダービーランドのナピアNapier岩体やプリンスチャールズ山地など東南極に知られている。原生代(25億年前から5.42億年前)の岩石は、東南極各地に広く存在し、プリンスオラフ海岸一帯には原生代後期から古生代初期に変動を受けた岩石が多い。南極横断山脈は、東南極楯状地の西縁の部分が古生代早期(5~4億年前)にロス造山運動という地殻変動を受けた後、その上に古生代後期~中生代の地層が堆積した地帯である。西南極は、基本的にアンデス山脈に続く中生代後期~新生代の造山帯であるが、原生代の地層が存在する地域もあり、先カンブリア時代末期から古生代・中生代に何度かの造山運動を受けている (cf. 国立極地研究所,1986)。

昭和基地周辺の露岩地帯

日本の観測隊が主として活動してきたのは、東南極のリュツォホルム湾を中心にエンダービーランドからドロニングモードランド一帯の地域であり、各年次の観測隊により海岸部の露岩地帯や内陸の大和山脈からベルジカ山脈~セルロンダーネ山脈などが調査されている(Fig.1-2)。この地域一帯には、片麻岩や花崗岩および両者が入り混じったように見えるミグマタイトなど、地殻深部を示す岩石が広く分布する。

ナピア岩体には、約40億年前の年代を示す岩石が分布し、地球最古の岩石を含む地質体の1つである。この地域には、25億年前に広域変成作用を受け、1000℃以上に達する超高温の変成温度で特徴づけられる岩石(UHT)が産出する。エンダービーランドからドロニングモードランドにかけて分布する岩石は、11~10億年前後の年代と6~5億年前後の年代を示すことが多い。ナピア岩体をとりまく地域(レイナーRayner岩体)には、11~10億年前の岩石が分布する。プリンスオラフ海岸からリュツォホルム湾周辺には6~5億年前の岩石が多く、この地域をリュツォホルム岩体と呼んでいる。この年代は、アフリカ全土からゴンドワナ各地の岩石に広く認められ、「パンアフリカン変動Pan-African」と呼ばれ、この時に各大陸塊が集合して超大陸ゴンドワナが形成されたと考えられる。

ざくろ石珪線石片麻岩
ざくろ石珪線石片麻岩[竜宮岬、リュツォホルム岩体]W411
ざくろ石珪線石片麻岩
ざくろ石珪線石片麻岩[オングル島、リュツォホルム岩体]16Y66

南極大陸を中心にゴンドワナを復元すると、ちょうど昭和基地の対岸あたりがスリランカ~インドにあたる。ゴンドワナは一度に集合したのではなく、まず南極・インド・オーストラリアなどからなる東ゴンドワナとアフリカの主要部と南米からなる西ゴンドワナができた後、両者が合体したと考えられている。両者の境界は、マダガスカル―アフリカ南東部からセルロンダーネ山地あたりにあると考えられ、ゴンドワナの復元や形成機構の解明には、こうした地域の地質情報が欠かせない。このため、日本の南極地質グループの活動範囲は、インド・スリランカをはじめ、ゴンドワナ世界の各地に広がることとなった。本資料室のアフリカやマダガスカルなどの試料もそうしたラインの上で開かれた国際集会の巡検などで採集されたものである。

南極観測によって採集された標本は、極地研究所との取り決めに従って同一試料を2分割し、半分は各隊員の所属する研究機関において研究に供し、残りを保管する。標本には年次を表す標本番号をつけ、16Y01は山口大学保管の16次隊試料、16-01は極地研究所が保管するもう一方の試料を意味する。
山口大学の教員が参加した観測隊の年次とその活動範囲は以下のとおりである。本資料室に収蔵されている標本は、リュツォホルム湾一帯の露岩域を含むとともに、東はナピア岩体、西はドロニングモードランド、南は大和山脈、つまり日本の南極観測隊の主たる活動域のほぼ全域をカバーしている(Fig.1-2)。

  • 16次隊(JARE16,1974-75,越冬隊) 松本徰夫(当時長崎大学)
    リュツォホルム湾~プリンスオラフ海岸一帯および大和山脈
  • 19次隊(JARE19,1977-78,夏隊) 加納 隆
    プリンスオラフ海岸(竜宮岬,奥岩),リュツォホルム湾(テーレン)
  • 32次隊(JARE32,1990-91,夏隊) 大和田正明 セルロンダーネ山脈
  • 39次隊(JARE39,1997-98,夏隊) 大和田正明
    リュツォホルム湾(スカーレン),ナピア岩体(トナー島、アムンゼン湾)
  • 43次隊(JARE43,2001-02,夏隊、国際共同隊) 大和田正明
    中央ドロニングモードランド
  • 50次隊(JARE50,2008-09,夏隊) 大和田正明 セルロンダーネ山脈

文献

国立極地研究所(NIPR)編(1986)南極の科学5地学.古今書院,426p.

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