鉱物・岩石基礎知識

6.大陸の地質

6.1 安定帯と造山帯

大陸地殻は海洋地殻に比べ著しく不均質である。しかし大局的には、地震や火山など地殻変動の著しい地帯(変動帯あるいは造山帯)と安定帯とが画然と区別できる。地球上の主な変動帯には2とおりあって、日本列島など大陸と海洋の境目に位置する環太平洋造山帯と、大陸と大陸の間にはさまれたヒマラヤ-アルプス造山帯とがある。これらに対しオーストラリアやアフリカ・南北アメリカなど、大陸の大部分は安定帯である。プレートテクトニクスにもとづけば、海洋プレートは海溝において沈み込み、一番古い部分でも2億年程度であるのに対し、大陸プレートのとりわけ大陸地殻の安定帯には地球史の古い記録を保持した岩石が残っている。地球史40億年は大陸地殻の歴史にほかならない。

6.2 剛塊Craton、楯状地Shieldと卓状地Platform

環太平洋造山帯は、今も活発な地殻変動を続けているが、変動の歴史は中生代にさかのぼる。一方、現在安定帯となっている地域もかつては変動帯であった。したがって安定帯と造山帯の区分には、地質年代による線引きが必要である。そこで、顕生代以降にも変動した地帯を造山帯といい、5.4億年前の先カンブリア時代末には変動を終わり、以後は安定化した地域を安定帯(クラトン)という。安定帯のうち、先カンブリア時代の岩石が露出している地域を「楯状地」、上に顕生代の地層がおおっている地域を「卓状地」という。

始生代クラトン:「クラトン」には2とおりの意味があり、上記のように先カンブリア時代の安定帯一般をさす場合と、その中でもひときわ古い始生代の地質体をさす場合とがある。ここでは後者の意味を含めて始生代クラトンということにする。

6.3 始生代クラトン(グリーンストン-花崗岩帯)

オーストラリアやインドなど、始生代クラトンの多くの部分は、花崗岩類とグリーンストン帯から構成される。グリーンストン帯は、主に玄武岩質(~コマチアイト質)の火山岩とその他の表成岩類からなり、変成作用を受けて緑色となることが多いため、その名がある。この地帯は、金やニッケルなどの重要な鉱産地となっている。

始生代クラトンに特有の火山岩として、玄武岩にともなって、さらに珪酸分に乏しくマグネシウムに富んだ「コマチアイト」が産出する。コマチアイトは、急冷したかんらん石が長柱状にのびて、砂漠に生える長い針状の植物(スピニフェックス)に似た外観を示すので、Spinifexed Komatiiteとよばれる。当時の地球はまだ十分冷えておらず、原始マントルのかんらん岩が直接溶けて噴出するような条件があったのかも知れない。グリーンストン帯は、このほか安山岩や流紋岩など中性~酸性の火山岩および火砕岩、砂岩や礫岩、石灰岩や珪岩・BIFなどから構成される。

始生代クラトンには、量的に花崗岩質の岩石が多い。一般に始生代早期の花崗岩類は、比較的カリに乏しく(カリ長石に乏しい)、岩石学的にはTonalite-Trondhjemite-Granodioriteに相当するのでTTGとよばれる。また南インドのダルワールクラトンのペニンスラー片麻岩などのように、変成作用を受けて花崗片麻岩となっているものが多い。しかし実感としては必ずしもTTGだけではなく、カリ長石を含む部分もかなり多い。始生代末期の26~25億年前には、各地で大規模な花崗岩体の形成があり、大陸地殻が大きく成長したことが推定できる。この時期の花崗岩は、カリ長石に富んだ正しく花崗岩が多い(南インドのクロスペット花崗岩など)。

こうした特徴は、オーストラリアやインドのみならず、世界の始生代地塊に共通しており、創世期の地球の姿を反映したものと考えられる。

6.4 ゴンドワナGondwana超大陸

始生代の終わりごろ、カナダ楯状地にはケノラン造山運動を終わって、少なくとも幅2000kmをこえるスペリオル地塊ができ、地球上に大陸といえるくらいのサイズの地殻ができたと考えられる。以後、大陸は離合集散を繰り返してきたのであるが、地球史の上で、おおよそ4億年周期で数回、いくつかの大陸が集合・合体して巨大な“超大陸”を形成した時期があった、と考えられている。新しい方から、パンゲア、ゴンドワナ、ロディニアなどである。

パンゲアとは“すべての陸地”の意味であり、およそ3億年前に、地球上のほとんど全大陸が1つになった巨大大陸であるとされる(大陸移動説の創始者ウェゲナーの命名である)。これは中生代初めに分裂を開始し、まず南側のインド・オーストラリア・南極・アフリカ・南米などが一体となったゴンドワナと北側の北米・ユーラシアが一体となったローラシアに分かれ、さらに分裂をしていったと考えられている。約6億年前に成立したとされるゴンドワナとパンゲアの一部をなしていたゴンドワナとはほぼ同じ接合関係なので、同じ名称で呼ばれている。ゴンドワナとは、インド内陸部にすむ少数民族「ゴンド族」にちなんだ名前である。

大陸が集合衝突する際には、間にヒマラヤのような巨大山脈と変成帯ができると考えられる。約6億年前の造山運動をパンアフリカン変動といい、ゴンドワナ各地にこの時代の岩石が認められる。またおよそ10億年前にはグレンビル造山運動とともにロディニアができたと考えられる。衝突帯の変成岩には、1000℃以上の高温で再結晶した「超高温変成岩」やグラニュライト・チャーノカイトを伴う(どんな岩石かゴンドワナ資料室標で観察してほしい)。25億年前のインド・南極の岩石にも同様のものが産出する。

こうした超大陸がどのようにして集合し、また分裂してゆくか、については最近プリュームテクトニクスという新しいモデルが提唱されている。またゴンドワナの地域は、鉱物資源の宝庫としても注目される。いずれも地球科学上の大問題である。

プレートテクトニクスは、いわば海洋の地質学に支えられて発展したが、今後さらに地球史全体の解明を目指して、再び「大陸の地質学」が重要となるだろう。

本標本室には、南極・インド・オーストラリアを中心に、スリランカ・マダガスカル・南部アフリカ・ヒマラヤなど、ゴンドワナ各地で採集した、地球史40億年分の岩石標本が保存されている。各地・各時代の変成岩や花崗岩、グラニュライトやチャーノカイトなどが、引出をあければただちに見比べられるようになっている。これは、40年前から、そうした大陸の地質学の発展を期して、現地調査と試料採集を行ってきたからに他ならない。これらの標本が、いつか役に立てば幸いである。

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