主な標本と見学コース
6.資源と鉱石
(410号室)
鉄や銅、金銀などの有用物質を含む岩石を鉱石といい、地中に鉱石が集まっている場所を鉱床といいます。人類は地下に眠る鉱石-地下資源を探し出し、近代文明を築いてきました。個々の物質の必要性は時代と共に変化しますが、資源の探査や採掘・利用などに関する科学と技術は、今後ますます重要になってくるでしょう。ここでは金属資源を中心に、主な資源はどのような鉱石から得られているか、実物を観察しましょう。
日本は、資源にとぼしい国だと言われますが、けしてそうではありませんでした。かつて、日本の主要な輸出品の1つは「銅」でした。昭和30年代まで、日本には数100もの金属鉱山があり、様々な鉱産資源を産出しました。この標本室には、日本の鉱山がまだ頑張っていた当時、現地で採集された鉱石が展示されています。これらは、日本の鉱山の“最後の輝き”であり、もはや新たに採集することは不可能です。
工業的な利用面から、鉱物資源は以下のような種類に分けられます。
金属資源
ふつう鉱物は化合物の状態で産出します。化合物を分解して金属の形で利用するものを金属資源といいます。ただし金や白金のように天然に化合物を作らず単体として産出するものもあります。
鉄鋼金属
鉄鋼金属:鉄は最も使用量の多い金属です。しかし鉄だけでは「鉄鋼」にはなりません。少量のマンガンやクローム・ニッケル、コバルトやタングステンなどを混ぜることで、錆びに強いステンレスや硬い特殊鋼など様々な用途に応じた鉄鋼製品がつくられます。主に鉄鋼産業に用いられる金属を鉄鋼金属といいます。
世界最大の鉄鉱床地帯:西オーストラリア、ハマーズレー:世界の鉄鉱石の大半は、およそ25億~22億年前頃にできた縞状鉄鉱床BIF:Banded Iron Formationを採掘しています。 ハマーズレー地域はその代表例で、約25億年前の鉄鉱床です。写真はMt.Newmanの巨大な露天掘り。ベンチカットの1段の高さは20-30m位あります。→ゴンドワナ各地の地質、オーストラリア
縞状鉄鉱は太古の地球大気の化石?:鉄は赤鉄鉱Fe2O3など酸化物として産出します。鉄鉱石は酸素がないとできません。地球史初期の大気にはあまり酸素がなかったのですが、27億年前くらいに光合成によって酸素を生み出す藻類が発生し、次第に酸素が増加し、25億年前頃一斉に大規模な鉄鉱床ができたと考えられています。
資源問題の一側面:そこに巨大な資源があると分かっても、鉱山設備を整え、荒野に町を建設し、鉄道や道路を引き、港湾を整備しないと採掘も運搬もできません。資源開発には巨額の費用と時間がかかり、急にはできません。資源が枯渇するという心配より、むしろ安定供給の仕組みが大切です。
マンガン:マンガンは鉄鋼を作るのに欠かせない金属です。かつて美濃-丹波帯や秩父帯のチャート層中に小規模なマンガン鉱山がたくさんありました。また東北・北海道のグリーンタフ地域には熱水性のマンガン鉱床があり、美しい淡紅色の菱マンガン鉱を産出しました。
クロムとニッケル:クロムとニッケルはステンレススチールを作るのに必要な金属です。
タングステン:タングステンは電球のフィラメントなどにも使われますが、多くは高温に耐える硬い特殊鋼を作るのに用いられます。かつて日本では京都府の大谷鉱山や鐘打鉱山、山口県岩国地域など、白亜紀花崗岩に伴う鉱脈型あるいはスカルン型鉱床から産出しました。岩国地域には、喜和田・玖珂・藤ケ谷鉱山があり、重要なタングステン産出地域でした。
喜和田鉱山のタングステン鉱:灰重石:喜和田鉱山は玖珂層群中の石灰岩を母岩として、白亜紀の花崗岩との間にできたスカルン型の鉱床です。特に石灰岩と花崗岩から派生した石英脈の周囲に極めて高品位の鉱石を産しました。普通タングステン鉱は1%程度でも採掘されますが、20%を超える驚異的な品位の鉱石を産出しました
コバルト:コバルトもタングステンと共に、高温に耐え、摩擦に強い、硬い特殊鋼や強力磁石を作るために用いられます。世界のコバルト資源の大半はアフリカ中央部カタンガ地方の堆積性銅鉱床の副産物として産出します。日本では山口県の於福や長登鉱山など秋吉台周辺のスカルン型鉱床から産出しました。
非鉄金属
非鉄金属:鉄及び鉄鋼製品に必要な金属以外を全部まとめて非鉄金属といいます。非鉄金属の中で、以前は銅の使用量が最も多かったのですが、現在はアルミニウムの使用量が多くなっています。また比較的値段が安く使用量の多い銅・鉛・亜鉛をベースメタル、金・銀・白金を貴金属といいます。
アルミニウム:アルミニウムは地殻の中で酸素・珪素に次いで豊富にある元素です。一般にAlに富んだ岩石が風化する際、水に溶けやすいNaやKなどは流出し、溶けにくいAlが現地に残ります。こうしたものを風化残留鉱床といい、風化の盛んな熱帯地域や石灰岩地域に産出します。
レアメタル(希少金属)とレアアース(希土類元素):レアメタルは、「産出量が少なく、使用量も少ないが近代産業に不可欠な金属」という意味で、鉄・アルミ・銅・鉛・亜鉛以外のほとんどの金属がそれに当たります。例えば、白金・コバルト・クロム・ニッケルなどは、一部の地域に偏って産出するため、供給が途絶えた時に備えて備蓄する必要があります。いっぽうレアアースもレアメタルの一部ですが、周期表の第III族第6周期のランタン族元素(原子番号57番~71番)15元素とスカンジウムSc・イットリウムYの2元素を加えた17元素のことです。化学的によく似た性質を示し、強力磁石や電子材料など様々な用途があり、ハイテク産業に重要な物質です。中国が最大の輸出国で、数年前尖閣問題を契機に日本への供給が途絶え、大騒ぎになった記憶が残ります。
銅:電気の良伝導体で展性・延性が大きいため、電線など様々な電気製品に使用されます。銅を含む鉱物はたくさんありますが、一般に硫黄と化合して硫化鉱物を作ります。中でも黄銅鉱が最も普遍的な鉱石鉱物です。銅は、明治・大正時代には日本の主要な輸出産品の1つでした。日本の銅鉱床は、別子・日立などの変成帯中の層状含銅硫化鉄鉱床、小坂・花岡などの黒鉱鉱床、尾去沢・足尾・明延などの熱水性鉱脈鉱床、釜石などのスカルン鉱床に区分されます。現在世界の銅の大半は、南米・北米の中生代~新生代の花崗質岩に伴う斑岩銅鉱床と中部アフリカの堆積性鉱床から産出します。
層状含銅硫化鉄鉱床(キースラーガー):周囲の岩石の片理面や層理面に平行した層状の鉱床で、黄銅鉱・黄鉄鉱・磁硫鉄鉱などからなる鉱床です。日本では三波川帯の別子(四国)・飯盛(近畿)・峰の沢(中部)や阿武隈帯の日立、四万十帯の槇峰などから産出しました。→日本の地質、日立変成岩、三波川帯、四万十帯
財閥と鉱山:日立鉱山は、西の別子とならぶ銅の大鉱山でした。山口県萩(須佐)出身の実業家久原房之助が明治38年に開発に着手し、ここで得た利益をもとに久原財閥を興しました。現在の日立グループは日立鉱山の電気機械工場から発足しました。三井の三池や神岡、三菱の生野・明延や石炭、住友の別子など、今日の巨大な企業集団はいずれも明治・大正期の鉱山開発から発展しました。
鉛・亜鉛:鉛は主に自動車のバッテリー、亜鉛は防錆用のメッキ材やダイカスト合金などに用いられます。鉛は方鉛鉱、亜鉛は閃亜鉛鉱が主な鉱石鉱物です。一般に両者はほとんど常に伴って産出します。また方鉛鉱に伴って銀を副産物として産出します。岐阜県の神岡鉱山は日本最大の亜鉛鉱山でした。世界ではオーストラリアのMt. Isa鉱山やBroken Hill鉱山が有名です。
神岡鉱山の鉱石:神岡鉱山は飛騨変成岩中の石灰質変成岩が熱水作用をうけてできたスカルン型の鉱床です。鉱石にはヘデンベルグ輝石を主とする杢地鉱と白地鉱があり、鉱石鉱物はいずれも閃亜鉛鉱と方鉛鉱です。
黒鉱鉱床:黒鉱は、閃亜鉛鉱・方鉛鉱・黄銅鉱などからなる細粒ち密な鉱石で、黒っぽく見えるのでそう呼ばれます。黄銅鉱や黄鉄鉱の多い部分(黄鉱)、石膏の多い石膏鉱を伴うことがありますが、全体を黒鉱鉱床といいます。東北地方のグリーンタフ地域、特に秋田県大館地域に、花岡・小坂・釈迦内などの大鉱床がありました。黒鉱鉱床は新第三紀の火山活動に関係してできましたが、先カンブリア時代の古い大陸地塊にも類似の鉱床があります。
層状硫化物鉱床:銅・鉛・亜鉛・銀などの硫化物は、特定の時代の地層の中に、周囲の地層と平行的な層状の鉱床として産出することがあります。日本の新第三紀の黒鉱鉱床、キースラーガー、中部アフリカの原生代後期の地層(カタンガ層群)の銅コバルト鉱床(カッパーベルト)、オーストラリアのマッカーサー層群やMt.Isa、Broken Hillなど、資源的に重要な鉱床地帯を形成します。多くは還元的な環境での堆積作用や熱水作用による火山性-堆積性鉱床と考えられます。
金・銀:日本には各地に多数の金銀鉱山がありました。現在なお日本唯一の金属鉱山として稼働している鹿児島県の菱刈鉱山は、世界の一般的な金鉱床に比べてはるかに高品位の鉱石を産出しています。日本の金鉱床の多くは、新第三紀~第四紀の火山活動に伴う熱水性の鉱脈鉱床です。金の一部は銅鉱床の副産物、銀は鉛亜鉛鉱床の副産物としても産します。
銀鉱石:銀の主要鉱物は輝銀鉱といい、銀と硫黄の化合物です。銀は金と共に産出しますが、鉛・亜鉛鉱山の副産物(方鉛鉱に伴うことが多い)としても産出します
西オーストラリアの始生代の金鉱床:世界的に見ると、金は始生代の含金礫岩やグリーンストン帯の玄武岩(コマチアイト)と花崗岩に伴う鉱床から多く産出します。西オーストラリアのカルグーリ地域には大規模な露天掘り金鉱山が多数あり、5~6g/tくらいの低品位の鉱石でも大量に採掘・処理して採算をとっています。