主な標本と見学コース
7.岩石の性質と産状
(410号室)
固体地球を作る物質:岩石の性質と産状
固体地球の大部分は、酸素と珪素の結合を基本構造とした珪酸塩鉱物とその集合体である岩石でできています。宇宙空間どこへ行っても、珪素と酸素がある限り、地球と条件が似ていれば、同じ珪酸塩鉱物と岩石があるはずです。一般に岩石ができるのには何万年という地質学的な時間がかかり、地殻深部の現象を直接見ることはできませんが、火山岩のようにその場観察できる岩石や、野外観察や実験データの蓄積により、各岩石のでき方と形成条件が分かってきました。ここでは実物標本をもとに、主な岩石の性質や産状について解説します。→鉱物・岩石基礎知識
410号室東側の窓際のガラスケースを見て下さい。指標鉱物は窓側のガラスケースにあります。変成岩の標本と見比べて下さい。
岩石の分類基準:ヨコのカギとタテのカギ
ヨコのカギ:構成鉱物の種類と量比・化学組成:岩石は構成鉱物の種類と量比によって性質が異なり、構成鉱物の種類と量比は岩石全体の化学組成によって決まります。主要な造岩鉱物には、色の濃い有色鉱物(Mg・Feを含む苦鉄質鉱物)と白色の無色鉱物(珪長質鉱物)があり、有色鉱物の量を色指数といいます。また岩石は珪酸塩鉱物でできているので、珪酸分の量(SiO2wt%)を化学組成の指標とします。色指数とSiO2量による区分はおおむね一致しますが、一致しない場合もあります。
タテのカギ:組織と構造:構成鉱物の形や集合の仕方・配列などの幾何学的な性質を組織または構造といい、岩石のでき方や形成条件を表す指標となります。例えば、火山岩はマグマが急冷してできるので細粒で、マグマ中で自由成長した自形の鉱物を含みます。深成岩では大きな結晶に成長し、鉱物相互に入り組み合った組織を示します。岩石はこのヨコとタテのカギを組み合わせて分類します。
1.火成岩
陸の王者花崗岩、海の女王玄武岩!火成岩のうちで全地球的に最も広く分布するのは花崗岩と玄武岩です。花崗岩は大陸地殻、玄武岩は海洋地殻を構成します。
1-1 火山岩
玄武岩 Basalt:主に斜長石と輝石・かんらん石を含む苦鉄質の火山岩です。地球史初期から現世まで、最も大量に噴出しました。月でもそうですから最も本源的な岩石であることを暗示します。比較的粘性が小さく、大きく広がった溶岩台地や溶岩平頂丘、ハワイのような楯状火山を形成します
安山岩 Andesite:主に斜長石・角閃石・輝石を含む中間質の火山岩です。日本列島など造山帯に多く、Andesiteの名はアンデス山脈に由来します。マグマの珪酸分が多くなるにつれて粘性が大きくなり、爆発的な噴火をし、成層火山やずんぐりした形の溶岩円頂丘を形成します。
1-2 半深成岩
花崗斑岩 Granite porphyry:四角い大きな自形の斑晶と細かな地の部分(石基)が、明瞭な斑状組織を示す岩石です。花崗岩と同様、主に石英・カリ長石・斜長石と黒雲母を含みます。石基には火山岩のようにガラス質物質はなく、完晶質(すべて結晶)です。石英斑岩もほとんど同質ですが、石英斑晶の多いものをいいます。
ドレライト Dolerite/輝緑岩 Diabase:玄武岩とほぼ同質の完晶質の岩石で、岩脈状をなす苦鉄質の岩石です。ドレライトは粗粒玄武岩と訳します。米英独それぞれに用法が異なるので混乱があります。花崗岩や変成岩中に岩脈状に出るものを輝緑岩ということが多い。
1-3 深成岩
花崗岩 Granite:主に石英・カリ長石・斜長石・黒雲母からなる珪長質の深成岩です。石英・カリ長石・斜長石がほぼ等量~カリ長石が多いものが本来の花崗岩です。比較的斜長石と有色鉱物の多いものを花崗閃緑岩~トーナル岩、斜長石・石英が多く珪長質であるがカリ長石に乏しいものをトロニエム岩といい、全部まとめて花崗質岩Granitoidといいます。また閃長岩はカリ長石に富み、アルカリ分の多い花崗質岩です。
閃緑岩 Dioriteと花崗閃緑岩 Granodiorite:主に斜長石と角閃石からなる中間質の深成岩を閃緑岩といいます。石英・カリ長石・黒雲母を含むこともあり、石英・カリ長石が多くなった岩石(ただし斜長石>カリ長石)を花崗閃緑岩といい、花崗岩と閃緑岩の中間的性質を示します。
斑れい岩 Gabbro:主に斜長石と輝石からなる苦鉄質の深成岩です。かんらん石を含むこともあります。角閃石の多いものを角閃石斑れい岩といいます。玄武岩質マグマが地下で固結すると、層状構造の発達した斑れい岩体(層状分化岩体)を形成することがあり、マグマ中での結晶作用の様子が研究されています。その中には磁鉄鉱やクロム鉄鉱が集積することがあります。南アフリカのブッシュフェルト岩体は、直径400㎞もある巨大な岩体で、世界最大のクロム・白金の鉱床を含みます。
かんらん岩 Peridotite:主にかんらん石からなる超苦鉄質(超塩基性)の深成岩です。輝石や斜長石を含むこともあります。ほとんどかんらん石のみからなる岩石をダンかんらん岩Duniteといいます。普通の岩石は珪酸分が50%以上ありますが、45%以下の岩石を超塩基性岩といいます。日高帯の幌尻岳・幌満、三波川帯の東赤石山などのかんらん岩体が知られています。上部マントルはかんらん岩のような岩石でできていると考えられます。
コマチアイト Komatiite:主にかんらん石からなる超苦鉄質(超塩基性)の火山岩です。先カンブリア時代、特に始生代のグリーンストン帯に見られる岩石で、日本には出ません。急冷した時にできる細長いかんらん石を含み、オーストラリアの乾燥地帯に生えるspinifexという植物に似た外見をもつものをspinifexed Komatiiteといいます。地球史初期に、まだ地球が十分冷えない時期に、原始マントルが溶けたマグマが噴出したものであろうと考えられます
2.堆積岩
砕屑岩:泥岩・砂岩・礫岩:風化作用で生じた泥や砂・礫などの砕屑粒子が流水や風により沈積し、長時間かかって自重圧と珪酸や炭酸カルシウムなどのセメント物質によって砂泥などの粒子が固結し岩石化した岩石。
2-1 砕屑岩
2-2 生物的・化学的堆積岩
珊瑚礁石灰岩のように明らかに生物的な堆積岩と岩塩や石膏のように主に化学的な作用でできた堆積岩がありますが、生物の作用と化学的作用とは密接な関係にあることが多いので、生物的・化学的堆積岩とします。
- 縞状チャート:灰白色のチャートと黒い泥岩の薄層。顕生代のチャートは放散虫など珪質の骨格を持った微生物の集積と考えられていますが、始生代のチャートなど熱水から珪酸分が沈澱してできたものもあります。山口県美川町、玖珂層群、標本番号Y0109→山口県の地質
3.変成岩
3-1 広域変成岩
広域変成岩の見かけの特徴は、片理といって構成鉱物が一定方向にならんで平たい面状の構造が見られることです。特定の鉱物が集まって縞模様(縞状構造)を示すこともあります。面状の構造や縞模様は、火山岩や堆積岩にも見られますが、火山岩の鉱物は四角い自形をしており、堆積岩では堆積粒子(鉱物と岩片の場合がある)の間を極めて微細なセメント物質が埋めています。いっぽう変成岩は、おおむね同程度の大きさの不定形の鉱物どうしが互いに入り組みあい密着した組織(グラノブラスティック組織という)を示します。
広域変成岩:千枚岩 Phyllite・結晶片岩(片岩)Crystalline schist・片麻岩 Gneiss: 広域変成岩は見かけの結晶度(鉱物粒子の大きさ)により、千枚岩(紙を重ねたような片理を持つが肉眼では結晶粒子はほとんど見えない)、片岩(片理が明瞭で肉眼で結晶が分かる)、片麻岩(鉱物の大きさは花崗岩と同程度、片理はやや不明瞭で縞状構造が見えることが多い)に区分されます。なおこれらは変成相に基づく区分ではありません。→鉱物岩石基礎知識
広域変成岩の種類と形成条件:変成岩のできる条件-変成作用のタイプは、温度や圧力の変化に対応してできる鉱物の種類と組合せおよび岩石全体の化学組成との関係から調べることができます。変成岩(変成作用)には、高圧(低温)型・中圧型・低圧(高温)型の3系統があります。そうした変成条件を示す鉱物を指標鉱物といいます。
高圧(低温)型変成岩:比較的低温で圧力の高い条件でできた変成岩。海溝付近の沈み込み帯の深部でできると考えられています。低変成度の地域ではぶどう石やパンペリー石、高変成度の地域ではローソン石や藍閃石を含みます。藍閃石が多いと岩石が青みがかるので藍閃石片岩相あるいは青色片岩相とよばれます。
中圧型変成岩:比較的低変成度の地域で紅柱石、やや高変成度の地域で十字石・藍晶石、高温の地域では珪線石を含むような系列の変成岩です。日本では飛騨帯の宇奈月変成岩、世界ではヒマラヤ山脈などの大陸衝突型の変成帯によく見られます。
低圧(高温)型変成岩:低変成度で紅柱石、高変成度で珪線石ができる系列の変成岩です。比較的低圧の条件で温度が上昇するような地域に見られます。領家帯がその例で、多くの花崗岩を伴っています。また高温部ではミグマタイト質の岩石がよく出現します。→日本の地質、領家帯
変成条件を示す鉱物:紅柱石・藍晶石・珪線石:いずれもAl2O5という簡単な化学式の鉱物です。温度・圧力の変化に応じて結晶構造が変化する(多形といいます)ので、変成岩の形成条件を示す重要な指標鉱物です。比較的低温で紅柱石、高温で珪線石、高圧で藍晶石が出現します。
高温・高圧の変成岩
グラニュライト Granulite:高温高圧(特に高温)条件でできたグラニュライト相の変成岩です。インド・スリランカ・東南極などゴンドワナの一部地域では、1000℃以上の普通なら岩石が溶けてマグマになるような超高温でできた変成岩が出現します。
- エクロジャイト Eclogite:赤いざくろ石と緑色の単斜輝石からなる苦鉄質~超苦鉄質の岩石です。地殻下部やマントルの高圧条件(エクロジャイト相)でできた岩石です。愛媛県別子山村、標本番号G116→日本の地質、三波川
3-2 接触変成岩:ホルンフェルスとスカルン
ホルンフェルス Hornfels:高温の火成岩体の周囲に出来た岩石。火成岩の熱のために再結晶して硬くち密で、天然の焼物-セラミックスといえます。角のようにとがった岩片になるのでホルンフェルスの名があります(→山口県の地質、須佐ホルンフェルス)。
スカルン Skarn:石灰岩に高温の花崗岩が接すると、石灰岩は再結晶して大理石になり、また化学反応を起こして石灰分Caを含む珪酸塩鉱物ができます。こうした岩石をスカルンといいます。なおスカルンは接触変成岩だけでなく広域変成岩にもあります。
3-3 断層岩(圧砕岩/動力変成岩)
断層と断層岩(圧砕岩 Mylonite ミロナイト/マイロナイト):断層は岩石がバリッと破壊して(脆性破壊)ずれ動くことによってでき、その周囲に生じた特有の組織を持った岩石を断層岩(圧砕岩)といいます。地表近くでは、破砕された岩片と粘土からなる断層ガウジ゙Fault Gougeや、それらが固結したカタクレーサイトCataclasiteができます。地下深くなると温度圧力が増大するので再結晶作用や流動現象が顕著になり、マイロナイトと呼ばれる岩石になります。花崗岩地帯では、大きなカリ長石を含む眼球片麻岩ができます。中央構造線に沿った天竜川地域にある「鹿塩片麻岩」もマイロナイトの一種です。→日本の地質、領家帯
マイロナイト(ミロナイト)Mylonite:断層帯の地下深部では温度圧力が上昇し、脆性的な破断より再結晶作用によって細粒ち密で片理の発達した岩石になります。花崗岩質の岩石では、石英が細粒化し、細粒化しにくい長石の周りをとりかこみます。長石は小さな結晶がくっついて成長することもあり、眼球状の形になります。細粒化が進むと、長石も残晶(ポーフィロクラストという)になり、ついにはUltramyloniteになります。
シュードタキライト Pseudotachylite:急激な断層運動が起きると、摩擦熱のために岩石が溶け、極めて細粒でガラス質の細脈ができることがあります。それをシュードタキライト(偽玄武岩玻璃)といいます。いわば「地震の化石」のようなものです。